価格について

着物に定価は殆どありません。価格は最終的に呉服屋が仕入れ値などから判断して決めますが、基準はまちまち。例えば全く同じ振袖がA店では20万円、B店では50万円など、かなり開きがあるのが現実です。 よほど目利きでないと生地の善し悪し、染め織り加工の違いなど判断できません。
電気製品など型や機能がはっきりしている業界では値段重視なので大規模店が安いというメカニズムが働きますが、きものには当てはまりません。 小規模な個人の呉服屋は高いという誤解がある様ですが、品物を吟味して買い取り仕入れをすることで、リーズナブルな価格で揃えている店も多いのです。 

  • 展示会販売について:伝統工芸展、作家展など企画販売会では、メーカー/問屋から商品を揃えてもらうことになるので、買い取り仕入れよりは価格が高くなります。 その代わり、例えば「結城紬」「江戸小紋」などテーマごとの品揃えにボリュームが生まれるので魅力的な品揃えができるのが利点です。 問題はここでも店によって価格差が大きいこと! 低コスト催事で適正な価格設定であれば問題ありませんが、派手な演出、旅行付き販売、レディース(展示会勧誘販売員)をたくさん使う、などの高いコストは価格に転化されます。
  • 一般的価格:問屋などから商品を借りて店または展示会で販売される価格が「一般的な価格」と言われている場合が多いようです。当然、買い取り仕入れ(借りるのではなく在庫にする)の場合は仕入れが安くなるので、いわゆる一般的価格より安く販売することが可能になります。

 肝心なのは、信頼できる店を見つけることに尽きます。
 適正な価格は大前提なのですが、更に大切なことがあります。

  • 品質:素材の良い品物は価格が高めでも、長く気持ちよく着ることができるので、結局経済的!
  • センス (デザインとコーディネイト):売れ残り品を安く仕入れて安く販売することは簡単です。価格だけに惑わされず、好みの色、柄を選びましょう。
  • 的確なアドバイス:どんなに良い品物でもユーザーの着用シーン(TPO)やイメージとミスマッチだったらガッカリです。
  • 仕立て:着物自体が良い品物でも、仕立てや裏地の質が悪かったら値打ちが半減したようなものです。 胴裏、八掛、帯芯など本体以外も品質は様々です。一般には分かりにくい部分なので、コスト削減で安いものを使うことは簡単なのです。
  • アフターサービス:気軽にクリーニングやお直しなど細かいことでも頼める地元の店があると便利です。本当に好きな着物を長く愛用したいですからね!

仕立てについて(和裁)

寸法

着物を購入して呉服店が寸法書を作成する場合は着用者の「身長」「裄」「ヒップ」などを採寸して割り出しますが、いくつか注意することがあります。 こちらから何も言わなければ、そのまま標準寸法表に従って決められる可能性があるので、以下の事に注意して必要に応じて相談する必要があります。

  • 着物と長襦袢の「裄」と「袖丈」を対応させる:基本的に長襦袢の裄(ゆき)と袖丈は着物より2分(8mm)~3分(11mm)短くします。着物だけを仕立てる場合は下に着る予定の長襦袢を採寸してもらいましょう。 また、着物と長襦袢を同時に仕立てる場合でも、着回しがきくように既にお手持ちの着物や長襦袢の寸法に合わせた方が便利です。
  • 素材によって裄(ゆき)を変える:紬、お召し、麻など比較的軽くてゴワッとした固めの素材は裄の長さに注意が必要です。通常は 長襦袢より3分程度(約11mm)長めに仕立てるのが基本ですが、 これらの素材は基本通りですると、着た時に肩で生地を取られて短くなり、袖口から長襦袢がのぞいてしまうこ場合があります。素材や体型にもよりますが、この場合裄は通常より長めに しましょう。
  • 長襦袢丈に注意:長襦袢丈は対丈(ついたけ)なので、長過ぎると表着の下(裾)から見えてしまいます。 着付の方法によって調整が必要です。一般的な腰紐を使う場合では締めた時長襦袢の裾が少し上がりますが、 腰紐を使わずコーリンベルトだけで着る場合(体を締め付けない)は裾の位置は上がらないので、長襦袢丈が長過ぎることがあります。 腰紐をする場合よりは長襦袢丈を5分(約19mm)程度短めに仕立て方がよいでしょう。
  • 着る目的を伝える:茶道をされる方はお点前(おてまえ)する時に正座のまま向きを変える動作があるなど、裾がはだけやすいので、前幅を少し広めにします。日本舞踊をされる方は袖口をつかむしぐさがあるので、裄を長めにします。「衣紋(えもん)」を多めに抜くので、「繰り越し」や「衿肩あき」を多めに取ります。

和裁

 どんなに上質な着物を購入しても仕立てが悪ければ着心地は悪いし、見た目にも美しくありません。仕立代が安いからといって、仕立てに問題があっては着物の価値が半減したようなものです。衿のカーブなど難易度の高い部分は和裁士の腕によって差が付きます。

  • 個人の和裁士さん:それぞれ和裁士さんの技量が違いますから、呉服店がどれだけのレベルを基準にして和裁士さんを選択しているかということで変わってきます。
  • 和裁学校:一定レベル以上の生徒さんが仕立てるということもあるようです。先生がチェックしているので多くの場合問題ないと思いますが、チェックをどれだけ厳しくしているかが重要です。
  • 海外縫製:現在は着物の仕立てもベトナムなどの海外縫製が増えました。海外縫製会社によって品質に差があると思われますが、しっかり品質管理している会社なら奇麗に仕立てますし、納期も守ります。ですから海外縫製だからといって極端に安くはありません。逆にあまり安過ぎるのは要注意かもしれません。また、海外縫製は急ぎの仕立てには対応できないので、1ヶ月以上の余裕が必要です。今では概ね海外縫製に品質的な問題はありません。パーツごとに分業で仕立てるので、むしろ奇麗に仕上がると言う方もおられます。ですが、やはり着物(和服)は日本の和裁士さんに仕立ててもらうことを基本にしたいものです。

「検針済」確認

 仕立て上がった着物や帯が検針器に掛けられているか確認してください。縫い上がった段階ではマチ針替わりに使った縫い針が残っていることがごく希にあります。和裁士または呉服店の段階で必ず検針器に掛ける必要があります。部分直しした着物も同様です。 

端から端まで検針器に掛ける
検針済の証

絹と化学繊維の見分け方

本来絹であるべきものが化学繊維を使われていたということがあるようです。
<事例1>当店ではきものの丸洗いをお預かりしていますが、初めてご来店のお客様が長襦袢を持ち込まれて見させて頂いたところ、私がどう触ってみても化学繊維にしか思えないので「家でも洗えますよ」とご説明すると「ある呉服屋さんで絹の長襦袢だと言われて買った」と言われたことが何度かあります。単なるお客様の勘違いなら良いのですが、化学繊維を絹だと言って販売していたとすれば大問題です。
<事例2>「ある呉服屋で高額な絹の着物を作ったが、どうも裏地(胴裏や八掛)がポリエステルみたいで、着にくいので見てみてもらえませんか」という相談。

 技術の進歩で化学繊維でも絹の風合いに近くなっていますし、逆に品質の落ちる絹は化学繊維のようにカサカサした風合いのものもあるので、見分けがつきにくいことがあります。
仕立てる前の製品(丸巻きなど)の段階では長襦袢でも裏地(胴裏、八掛)でも品質表示を見れば分かりますが、着物に加工されると表示まではされないでしょう。

買い物で失敗しないために

明細をもらう お誂え着物の場合(例)表地代+胴裏代+八掛代+湯のし代+仕立代 という様にお買上げ伝票に明細を表示してもらいましょう。通常は絹の着物に化繊の裏地をつけるのはおかしいですし、化繊を絹と言って販売するのは問題外ですから、本来は聞くまでもないことですが、初めてのお店や極端に安い場合などは念のため確認してみてもいいでしょう。(近年は仕立上り品も多いので、絹の着物に裏地ポリエステルの表示がされているものもあるようです)

繊維の見分け方

 絹と化繊の違いは触ってみれば大体見分けはつきます。化学繊維の場合、乾いたカサカサした感触があります。良質な絹はしっとり肌になじむ感覚や、擦り合せるとキュッキュッという絹鳴りの音や独特の摩擦感があります。ただ、前述の通り分かりずらい場合もあるので、その時は奥の手があります。

[燃やす] 余り裂があれば、燃やしてみると見分けられます。

  • は髪の毛を燃やしたようにジリジリと縮んで、黒褐色の塊になります。つぶしてみると粉々になります。独特の臭いがあるので、覚えておくといいでしょう。
  • ポリエステル、ナイロンなど石油系の合成繊維は黒煙をあげて炎が上がり、冷えると硬い玉になります。
  • プロミックス(半合成繊維)は絹の燃え方に似ているようです。縮んで黒褐色に固まり押すと潰れます。髪の毛を燃やしたような臭いがあります。(プロミックスは牛乳蛋白カゼインを主原料とした繊維

※化学繊維には合成繊維、半合成繊維、再生繊維があります。

どんなに技術が進歩しても、絹の風合いや機能にかなう繊維はありません。もちろん化学繊維には、シワになりにくい。カビが発生しにくい。縮まない。水で洗える(洗えないものもあります)などのすばらしい機能があるので、着用場面によって大いにいに利用すると良いと思いますが、絹の風合いに勝るものはありません。化学繊維を利用する場合はその旨をはっきりお客様にお伝えしなければいけません。